『りんごのおじさん』という絵本があります。
実話を元にした絵本で、感動しました。
国の指導通り、たくさんの肥料と農薬を使ってりんごを栽培していました。
でも、いつしか自分も奥さんも皮膚が剥け、痕が真っ赤になり、農薬を減らしていきたいと思うようになりました。
そして、有機栽培、それから無農薬、無肥料栽培へと挑戦していきます。
9年間、収穫がゼロという苦難の道を歩みますが、ついに、無農薬、無肥料のりんご栽培を成功させます。
簡単に言ってしまえば、こんなストーリー。
このお話が木村秋則さんという方の体験を元にしていると知り、木村さんの書かれた本があるのではないかと思い、探してみるとありました。
それが、『リンゴが教えてくれたこと』。
この本も読み始めたら止まりませんでした。
家庭菜園もままならない私ですが、この本を読むと、色々な野菜を作ってみたくなりましたし、木村さんの所に行って、お話を色々と伺いたい、そんな気持ちにさえなりました。
「あきらめない」のであれば、当然、そのために重ねるべき努力も、あがくことに伴う苦悩も、失敗したときに味わう絶望も、引き受ける覚悟がなければならない。と、『一億総ガキ社会』の中で著者の片田さんは書かれていますが、その覚悟を持ち合わせた人が、りんごおじさんこと、木村さんだと思います。
リンゴの収穫がゼロの間、現金収入がないので、畑や家財は差し押さえになったり、「あいつは変わっている」と近所からは村八分の状態。
そんな状況にあっても頑張る木村さん。
でも、「リンゴの自然栽培は絶対にできる。必ず答えがあるはずだ」と強く信じていたけれど、全く改善されない厳しい現実に、無農薬・無肥料栽培を始めて、6年目のある夜、死んでお詫びをしようと、ロープを持って山を登っていきました。
そして、この辺りでと思いロープを投げたら、勢い余って滑り落ちたロープ。
そのロープを拾おうと、目をあげたとき、月光に浮かび上がったリンゴの木。
「こんなところにまだリンゴ畑があったのか」
と思い、よく見てみると、それはドングリの木。
でも、そのドングリを見て、こんな山の中で、農薬も肥料も使っていないのに、これほど葉をつけるのか、
なぜ虫や病気が葉を食い尽くさないのかと、ただ呆然と立ちすくんでいた木村さん。
すると、気がついたのです。
あたりはなんともかぐわしい土の匂いに満ち溢れ、肩まである草をかき分けると、足元はふかふかで柔らかく湿気がある。
そして、木村さんは答えを見つけたのです。
「この土を作ればいい」と。
その土を作るために、木村さんの挑戦が始まります。
ただ、すぐにリンゴが収穫できるわけではありません。
ですので、木村さんはお米や野菜を作ったり、あるいは東京や北海道に出稼ぎに行ったり、キャバレーの呼び込みをしたりと、様々な仕事をされました。
本を読むと、その時の苦労もひしひしと伝わってきます。
どれだけ、無農薬・無肥料栽培を成功させたいと本気で思っていたかが伝わってきます。
リンゴやコメの無農薬・無肥料栽培を成功させた木村さんですが、何が大事かというと、「観察」、ずっと見ていることが大事だと言われます。
一例として、お米を栽培するときにした「イナゴの観察-イナゴを観察してわかったこと」
・オスはひとつもイネを食べない。
・メスは害を及ぼしてもそれが毎日ではなく、産卵する前だけ。
・どれくらいの被害かというと、一本のイネの100~130の米粒のうち、一番被害を受けた穂で5粒だけ。
愛情をいっぱい注いでいる様子がうかがえます。
無農薬・無肥料栽培成功のために、十数年の道のりがありました。
貧乏のどん底も経験されました。
でも、その貧乏にもぶれることなく、その夢をあきらめないで、実現させた木村さん。
そんな木村さんを見ていたら、勇気を貰えます。
ただ、私には彼が経験したような苦労をしてまで、実現させたい夢が今のところあるわけではないし、たとえあったとしても、あそこまでの苦労を引き受ける勇気や気力は、多分ないと思います。
木村さんのりんご園のことで、こんなエピソードがあるそうです。
台風19号で隣の畑は倒木の山。でも、木村さんのりんご園の被害はほとんどなかったそうです。
農薬や化学肥料を使っていないので、蔓に柔軟性があり、しなやかで落下しにくい。ちょっとぐらいの風にはびくともしないそうです。
木村さんの言葉を少しだけ・・・。
失敗に失敗を重ね、この栽培をやって知ったことは、私ができるのはリンゴが育ちやすいような環境のお手伝いをすることぐらいということでした。地球の中では人間も一生物にすぎません。木も動物も花も虫たちも皆兄弟です。互いに生き物として自然の中で共生しているのです。
人間はもっと謙虚であるべきだと思います。人間は自然の支配者ではなく、自然の中に人間がいるよと考えるべきです。本の最後の木村さんの言葉--
奇跡は努力の結晶だと言います。簡単にできたら苦労はありません。一つずつ壁を越えて階段を上っていくごとに、また新たな壁が生まれます。どうしたら壁をクリアできるのか。知恵を振り絞っていくところに人生の意義があります。
苦しい極限の極貧生活の中でも美しいと思う瞬間がありました。期せずして波瀾万丈の人生となりましたが、「それも楽しいよ」と若い人たちに言いたいです。本を通して知った木村さんを思う時、フランクルの言葉が思い出されます。
「人間はあらゆることにもかかわらず(中略)人生にイエスということができるのです。」
「たとえ今がどんなに苦しくても、あなたはすべてを投げ出す必要はない。
あなたがすてべを投げだしさえしなければ、いつか自分の人生に"イエス"と答えることの出来る日が必ずやってくる。
いや、たとえあなたが人生に"イエス"と言えなくても、人生のほうからあなたに"イエス"と光を差し込んでくる時が、いつか、必ずやってくるはずだ。」こちらで、木村さんのリンゴの花が見られます。
可憐で美しくて、なんだか癒されます。
ただ、福島原発事故の影響で、蜜蜂に被曝の怖れがあるので、「りんご蜂蜜」は中止になったと書かれていたのが、悔しいです。